2016.4.7 / UX

カスタマージャーニーマップから何を得たい?ー4つの目的とUXを可視化するデザイン手法

Masafumi Kawachi

どうすればより良いユーザー体験をデザインできるのか?という問いは、最も注目を集める話題の1つです。
その中でも、カスタマージャーニーマップはUXデザイナーだけでなく、マーケター、ディレクター、エンジニアなど職種を問わず知られるほど、有名なUXデザインの手法となりました。
時間軸でのユーザーエクスペリエンスの記事にもあるように、サービスが提供するUXを考える場合は、利用されている期間だけでなく、利用前、利用中、利用後、それら全体を回想している時間も含め、一連の時間軸を考慮する必要があります。
その視点に立てば、ユーザーがどのようにサービスを体験するのかを、時間軸で可視化したカスタマージャーニーマップは、確かに有用性が高く全体像を把握するのに適しています。

しかし、あなたが作成したマップは、一体どのような目的のために作られたものでしょうか?
体験を可視化するための手法はカスタマージャーニーマップだけではありません。いかなる手法も目的を明確化して使うことで、初めて適切に機能します。
そこで今回はUXデザインやサービスデザインの実務者、新規事業の担当者を対象に、下記の4つの異なるユースケースにて、それぞれどのようなUXデザインの手法が適しているのかをお話していきたいと思います。

4つの目的別に対応したUXデザイン手法

1. 現状のユーザー体験を見なおして改善したい
2. 理想の体験を構想したい
3. 構想したユーザー体験から具体的なUIに落とし込みたい
4. 体験を提供するためのプロセスや体制を見直したい

上記の4つそれぞれの目的を達成するために、どのような手法が考えられるか?その手法で得られるものは何か?どうして有効なのか?という問いに答えながら、順番に見ていきたいと思います。また、今回の記事では各手法の詳細な実行プロセスや作り方に関しては踏み込んでおりませんので、詳しく知りたい方は参考記事もあわせてご覧ください。

1. 現状のユーザー体験における問題点を見つけたい

使う手法:AS-ISカスタマージャーニーマップ

サービスをリリースした後、思うように伸びなかったり、より良い体験を提供したいという場合には、一連の体験のどこで問題が起きているのかを分析する必要があります。特に、ユーザー体験といっても抽象度が高くどこから手をつけるべきか、判断がつきにくいこともあります。
そのようなUXにおける現状の問題分析をするには、AS-IS×事業者視点で作成したカスタマージャーニーマップが適しています。そもそも、カスタマージャーニーマップと一口にいっても、大きく4つに分類することができ、AS-IS/TO-BEの軸と、事業者視点/顧客視点の軸があります。

customer-journey-map-pattern

AS-IS×事業者視点のカスタマージャーニーマップは、現状ユーザーがサービスをどのように体験しているのか、を時系列に沿って視覚化した図となります。
サービスとユーザーの全てのタッチポイントとチャネルを洗い出し、各タッチポイント毎の行動、思考、感情をプロットしていきます。ここでの注意点は調査分析に基づいて発見した事実から作成することです。そうでなければ、現状を適切に把握できず妄想で終わってしまいます。

例えば、とあるフリマアプリの現状の体験を評価分析するのであれば、友達から教えてもらう等の認知からはじまり、App Storeでの検索、DL、会員登録、商品の検索、商品の発見、商品の比較、値段の交渉、商品の購入、商品の受取、実際に着用する、といったように複数のステップを時系列に並べます。そしてログ解析やカスタマーサポートに集められた声、インタビューなどを用いて、ユーザーの行動と意図、感情をマッピングしていきます。
マップが完成した後は、全体を眺めて大枠で問題を特定し、評価するべき対象画面の抽出を行います。

ユーザー体験の全体像を把握することができ、マクロ視点から各タッチポイントに視点を移動させることで、問題となる要素を分析・特定したり、体験のコアとなる要素がどのようにユーザーに受け止められているのかを把握して改善の機会を発見することを手助けします。

また、AS-IS×顧客視点のカスタマージャーニーマップで描いた場合、自社サービスに限らず、想定ユーザーが自身の本質的なゴールや欲求を満たすために、日常生活の中でその領域にてどう振る舞うのかを、エスノグラフィやデプスインタビューなどの定性調査をした上で可視化します。
前述の例においてフリマアプリを提供している事業会社であれば、アプリにとどまらず買い物という広い領域の、日常の接点における意思決定や行動全体を描いたものとなります。AS-IS×顧客視点のカスタマージャーニーマップは、日々の行動から思いもよらない貴重なインサイトを得られる、デザイン思考をベースにした発想と改善の手法だと言えます。

参照:カスタマージャーニーマップのパターン

2. 理想の体験を構想したい

使う手法:TO-BEカスタマージャーニーマップ

前述のAS-ISカスタマージャーニーマップで、現状分析を行い問題を発見・特定したあとに、理想の体験を計画したい場合には、TO-BEカスタマージャーニーマップが最適です。

現状の問題分析を行った後の動き方は、2通り考えられます。
サービスが目指すべきビジョンと、特定した問題をどう解決できるか、という2つの視点からユーザー体験全体の理想を定義し、マッピングするという流れが1つです。注意点としては、作成した時点ではまだ仮説でしかない、ということです。AS-ISカスタマージャーニーマップでは、調査で発見した事実や洞察をベースに作成しました。
そこでユーザーが抱えている問題を理解しましたが、TO-BEジャーニーマップで描いた理想が、ユーザーから見た理想と一致しているのかはまだ分かっていません。思い通りにいかない可能性もあるということを念頭におき、サービスのリリース後に検証を重ねて、都度アップデートすることが必要でしょう。

または、AS-ISジャーニーマップを作成して現状把握と問題の特定を行った後に、理想の体験を定義して、その仮説をリリース前に検証するという流れが考えられます。ユーザーが何を達成したいのか、達成後にどうなることが望ましいのか、期待は何か、を調査を重ねて理解し、理想の体験の再定義を行い、マッピングしていきます。

いずれの方法にせよ、現状をしっかり理解して、ユーザーに対するインプットを踏まえないことには、理想を定義することはできないというのが重要なポイントです。

3. 構想したユーザー体験から具体的なUIに落とし込みたい

使う手法:構造化シナリオ

理想の体験を描いたあと、その体験価値とユーザーの間に立ち、橋渡しになるのがUIです。UIが接点となりユーザーの行動が生まれ、行動を通して価値を享受し、全体的な体験へとつながります。なので、UIは理想のUXを実現するために必要な行動を生み出す必要があります。
では、どうしたら体験という抽象的な概念から必要とされる機能へ、そしてUIへと落とし込めるでしょうか。
構造化シナリオ法はそのような目的を達成するのに役に立ちます。この手法は、ユーザーの問題に対する解決策を価値、活動、操作のそれぞれのレイヤーで理想形として定義するものです。

構造化シナリオは、階層ごとに以下の3つのシナリオから成り立ちます。
1.バリューシナリオ(価値の記述)
2.アクティビティシナリオ(活動の記述)
3.インタラクションシナリオ(操作の記述)

構造化シナリオ

バリューシナリオは、ユーザーがサービスを通じて得られる、根本的な価値の記述です。リーンキャンバスでいうUVPに近しいものです。
アクティビティシナリオは、バリューシナリオを分解して1つの特定の文脈での具体的な活動を描いたものです。ユーザー体験は活動の連続性によって生み出されます。カスタマージャーニーマップは体験全体の可視化に焦点をおき活動の連続性を表現しますが、アクティビティシナリオはその1シーンの活動を詳細に描いて具体的なイメージを共有するためのものです。
インタラクションシナリオは、アクティビティシナリオを達成するために必要な操作をタスクに落とし込み、具体的なインタラクションを記述したものです。

また、インタラクションシナリオからUIを設計する際には、以前にご紹介したUI flowsの手法が有用です。インタラクションシナリオで、既に必要と思われるタスクレベルのインタラクションが記述されているので、それを満たすためにどのようなUIコンポーネントが必要なのかが、非常に考えやすい状態となりスムーズに設計を進められるのではないでしょうか。

このように、構造化シナリオは定性調査と分析により導いた上位の欲求を元に、サービスが提供する価値へ、価値から体験へ、体験から活動へ、活動から製品とのインタラクションへと落とし込んでいくことを手助けし、結果として体験に必要な行動を生み出すためのUI設計をサポートします。

より詳細に知りたい方は、以下の記事が具体例と共に大変詳しくまとめられているので、参考になるかと思います。
参考:サービスデザイン方法論2014 第5回:構造化シナリオ法 レポート
エクスペリエンス・ビジョン

4. 体験を提供するためのプロセスや体制を見直したい

使う手法:サービスブループリント

最後に、紹介するのはサービスブループリントというメソッドです。
サービスは3つの特性、無形性・同時性・異質性を内包しています。無形性というのは形として触れられないこと、同時性は生産と消費が同時に行われること、異質性とは受け取る相手によって価値が異なることが挙げられます。
特に、同時性という点に着目すると、ユーザーに消費・体験されて初めてサービスとして生産されたことになる、と言い換えられます。それを考えた時に、消費・体験されるプロセスと生産されるプロセスを大局的な視点で眺め、理想の体験を提供できる体制になっているのか?を問いなおすことが必要です。

カスタマージャーニーマップを用いて理想のUXを描いて、それを元に構造化シナリオを作成しUIに落としこんだとしても、その体験を生産する体制が整っていなければ、どのように体験価値をユーザーにまで届けるのでしょうか。実は本当に根本的な問題は、プロダクトではなくて組織体制やオペレーションにあった、というのはよくある話です。

サービスブループリントはそのような状況を改善するための手法で、カスタマージャーニーマップのように体験の構成要素を洗い出した後、その行動に対してフロントステージとバックステージにて、各部門のスタッフやシステムがどう連携しながら動くべきか、を可視化します。
フロントステージではユーザーと直接的に接するサービス担当者の行動を、バックステージではユーザーに対して間接的に接するサービス担当者の行動をマッピングします。
サポートシステムでは、システムで履行されるものや、サポート人員の行動を洗い出します。
それぞれの動きを可視化することで、カスタマーサポートや物流など広く部門を横断して、組織全体でサービスをどう生産して提供していくべきかという視点が生まれ、現状の組織体制やプロセスの課題、新たな可能性の気付きが得られます。

サービスブループリント

例えば、レストランでの外食体験を提供するプロセスを描いてみましょう。顧客はレストランをネットで知ってから実際に来店します。その際にフロントステージでは、ウェイターが迎え入れて席へと案内します。そして顧客が席について注文を決めたらウェイターが注文を取り、その後ウェイターはバックステージの厨房にメニューを伝えて、料理人は料理を作り始める…といった一連のサービスでの顧客行動に対応したやりとりが見て取れます。

このようなリアルの世界においての、対人のサービスだと非常にわかりやすいのですが、勿論ネットサービスに関しても同様の視点は必要不可欠です。
配車アプリのUberでは、ユーザーがアプリを起動して、現在位置を設定して配車を頼みます。その裏では、システムからユーザーの現在位置が近くにいるハイヤーの運転手に通知され、フロントステージの運転手がユーザーを迎えに行く、というのがUberの体験を成立させているプロセスの一部分です。
このようなシステムとフロントステージの運転手の連携を含む、サービス生産プロセスがデザインされていなければ、Uberのユーザー体験は決して生み出せません。

またカスタマージャーニーマップとブループリントの比較がよくなされることがありますが、先に述べた構成要素は勿論、主要な用途が大きく異なります。
ブループリントは一連の体験の詳細というよりは、これまで見てきたように体験を提供するプロセス自体について詳細に描いたものという捉え方が正しいでしょう。このため、プロセスを分解して改善のための機会を特定するのに役立つ手法です。

参考:サービスデザインの骨格と視点
“リピーターを創出する顧客体験”を提供する組織の特徴-サービスブループリントによる可視化
サービスブループリントを使って病院のサービスプロセスを分析した事例

いかに見えないものを、可視化して共創できるか

以上、4つの目的とそれぞれに有効な手法を紹介しました。これら全ての手法に共通するのは、いかにインタンジブル(無形)な情報を可視化できるのか?という点にあります。
先ほどのサービスの特質でも無形性があげられたように、UXやそれを生み出すプロセスは本来まったく目に見えるものではありません。
しかし、上記で紹介したような手法を用いることで可視化することが出来ます。
目に見えるものがあれば、今までになかった視点や気付きが得られ、誰もがそこに参加しやすくなります。またそれだけではなく、実際に体験を形作るものを目の当たりにすることで、よりユーザー中心で考えるマインドセットをチームや組織に促すことにも役立つのではないかと思います。

サービスにおける体験を生み出すには、1つのチームを超えた組織全体で取り組む必要があり、共創できる環境をデザインするスキルがUXデザイン、サービスデザインの実務者や事業担当者には必須になってきています。
視点を横断させて、様々なステークホルダーを巻き込みながらインタンジブルなものを可視化することで共創する。そのために、目的に応じて正しい手法を使い分けられる引き出しを持っておくとよいのではないでしょうか。


STANDARDでは、ユーザー調査からインサイトと問題を導き、提供するべき体験と価値を実現するために、様々なクライアントさんと模索しながらサービスを共創しています。新規事業の立ち上げや、サービスの成長に課題を感じている方はお気軽にお問い合わせください

お互いの学びと成長を促せるメンバーを募集しています

STANDARDは「未来の豊かさにつながる仕組みをデザインする」というミッションを元に、人の役に立つ事業やビジネス、サービスの創出や改善をデザインの力で支援し続けています。

そのために、お互いの価値観を尊重し、学習と実践と内省をしながら成長できる場所であり続けることを目指しています。

あらゆる物事の仕組みを設計するデザイナーとして、ご一緒に考えながら試行錯誤していきたいという方からのご連絡をお待ちしています。

記事一覧へ

Related Articles

About us

アプリやWebサービスなどの新規事業や既存事業における
アイデアの仮説検証からデザインまでをサポートします

株式会社スタンダードは、アプリやWebでサービスを展開される方の企画制作をサポートするデザインファームです。