2017.2.1 / Business, Leanstartup, UX
新規事業の立ち上げやイノベーション創出に携わったことのある方は、どのようにすぐれたコンセプトを生み出せば良いのか悩んだり、今取り組んでいるアイデアや仮説が果たして上手くいくのか、一度は不安になったことがあるのではないでしょうか。
もし今この記事をお読みのあなたがそうしたことに携わっているのであれば、検討中のそのアイデアはどのくらいの確信をもって確かなものだ、と言い切れるでしょうか?またどうしてそのような確信に至ったのでしょうか?
例えば、下記の問いにどのくらい答えられるか、考えてみてください。
上記は、新しい価値を創るために考えるべき問いのほんの一部ですが、新規事業やイノベーションには常に不確実性が伴います。逆に言えば不確実性とリスクをいかにマネジメントしていくかが必要です。ではどのようにそのリスクに向き合えばいいのでしょう。
私自身、以前に友人とスタートアップを始めた身で、今現在はクライアント様の新規事業を支援させていただいてます。その中で様々な仮説、アイデアの実現を不確実な中で進めていくにあたり、ユーザーリサーチは常に大きな役割を果たしてくれました。
では、事業を立ち上げるにあたり、ユーザーリサーチを行う意義とはそもそもどこにあるのでしょうか?自分自身に問い直す機会も兼ねて、論考していきたいと思います。前半ではリサーチを用いる文脈と実務的な有用性について述べ、後半では新規事業に対しての向き合い方、及びリサーチの本質的意義に関して「本質直観」という考え方をベースに述べていきます。
先ほど、ユーザーリサーチが大きな役割を果たしてきたと述べましたが、そもそも今までリサーチをどのような場面で行ってきたのか、過去の経験を振返りながら考えてみると大きく2つに分類ができます。1つには、自身の中で仮説を生み出したりアイデアを発想をする、またはそれらをアップデートしていくときです。そしてもう1つには、そうして得た発想の前提となる仮説の妥当性を確かめるときです。この2つについてもう少し詳しく見ていきます。
デザインの大部分は、実は計算であるが、その以前に、なんらかの「発想」がなくてはならない。ここが人間の仕事といえる部分である。
と、「考えなしの行動」では述べられています。
発想的リサーチでは、あるテーマに対して新しい価値を生み出すアイデア発想のため、人々がどのような状況下でどのように行動をしているかを観察したり、過去のテーマに対しての経験を聞くことで事実を集めていきます。その中でどう感じているのかといった感情や背景を知り、共感と理解を深めながら得られた事実情報を統合して、アイデアへと紡ぎます。
なぜこれが有効なのか?というと、仮説を立てる際には自分自身の思い込みや無意識のバイアスが存在しているからです。人々がどのような環境でどう行動しているのか、彼らがどんなストーリーを語るのかを自身の目や耳などの身体を通して知ることで、様々な驚きが得られます。そのようなリサーチを通して、自分ではない誰かの生活世界に生きることができ、自分の中にはなかった価値観に出会うことで思い込みを外し、新たな視点を得ることが可能です。
真に創造的なアイデアは”対象への住み込み”から生まれる、とビジネス・インサイトという本には述べてあります。HOTPEEPERの創刊者であるくらたまなぶさんもBizzineの記事にて、顧客に「憑依する」という表現を用いています。要は顧客自体になりきることで自らのバイアスから抜け出すとともに彼らの世界に住み込み、彼らが生活の中で感じているものを自分自身の問題と捉えることができるために革新的なアイデアが生まれるということが述べられています。
ではどうしたらそうした対象になりきれるのか?というとキーワードはやはり共感です。問題や感情、価値観を自分の中に内在化させていくプロセスを通すことが必要で、そのためにはリサーチが役立ちます。アンケートなどの定量的なものではなく、質的なリサーチを通して状況に埋め込まれた知や経験を知ることが重要であり、具体的にはエスノグラフィやデプス・インタビューなどが挙げられますが、実際に用いる手法はプロジェクトの制約にも依存します。
また新規事業では既にアイデアがあったとしても、実際には不確実なことばかりです。人々がサービスを理解してくれるのか?本当に受け入れられるのだろうか?そもそも課題は存在するのだろうか?彼らをどうしたら見つけられるのだろうか?など、あらゆる仮説と前提によってアイデアというものは成り立っています。そのため、アイデアがある場合にはそれを仮説に分解し、リサーチを通して妥当性を検証することで不確実性を下げながら学びを得ることが重要になります。
例えばSTANDARDでは、初期のアイデアをまず顧客・課題・解決策の3つの仮説に分解し、特に顧客と課題の検証(Customer/Problem-fit)ができるまで、リサーチを通して検証していきます。
リーンスタートアップの盛り上がりもあり、一般的にはMVPを作って構築→計測→学習を繰り返そう、という考え方が普及しているのではないかと思います。そのため、「何をつくるべきか?」という視点にのめり込んでしまいがちですが、新規事業での正しい問いは「何を学ぶべきか?」です。
特に初期のアイデアは課題がそもそも存在していない場合が多いために、いきなりリリースを含めた構築を行うことは長期的にみると危険性が高まります。そのためリサーチを軸にして検証を進めていき、必要であれば簡易的なプロトタイプを利用するというアプローチをとっています。GVのユーザーリサーチャーMichaelも、4日間で行うリサーチスプリントという手法を用いて、”構築”のフェーズをできるだけ削ることで学習を重ねるイテレーションサイクルを提唱しております。
ただ、そもそも仮説が作ることができない場合や、仮説の質が低い場合には発想的リサーチが必要となるので、目的を明確に分けてどのようなリサーチが必要かを検討しながら進めます。
Running Leanで扱われているリーンキャンバスも同様の考え方で、単にビジネスモデルの構造を可視化するだけでなく、最も不確実でリスクの高い仮説から順に検証をかけていくためのツールとして利用することが重要です。(詳しくはこちらの記事でも述べられています。)
このようにユーザーリサーチを通すことで、新規事業の不確実性に対処することができます。
上記から新規事業を立ち上げる際のリサーチの大きな2つの役割について述べてきましたが、リサーチに全てを求めることは当然できません。たびたび聞くことのある、「ユーザーは答えを知らないのだからユーザーに尋ねても仕方がない」という意見であったり、「リサーチ結果が正しいとは限らない」というような声がそれを象徴しています。
たしかにユーザーは答えを知らない、というのはその通りですが、ユーザーが答えを知っていたとしても「ユーザーが答えを知っていることを完全に知ること」はできないのです。それは私が今、「お腹が空いた」と思っていることを、あなたが本当に「私がお腹が空いているかどうか」を確かめられないのと同じで、そこに確証は存在しないと思います。
しかしこれは、リサーチの問題というよりも私たちに存在している新規事業への向き合い方の問題ではないでしょうか。リサーチしてもユーザーに答えはわからないでしょう、という意見は前提が間違っていて、答えはあくまで私たちが判断して意思決定を行うべきであり、そのための確信は自身のなかで得るものだと思います。
月並みな例えですが医者と患者の関係を用いて説明してみると、ユーザーに答えを求めるとは、医者が患者に「あなたはインフルエンザですか?」と病状の把握を求めるのと同じです。でも医者の仕事は彼らがなぜ苦しんでいるのか理解して適切な処置を施すことであり、それは私たちがユーザーの課題をつきつめて、事業として価値を提供することで解決することと同義ではないでしょうか。そのなかで最終的に確信をもち、課題を定義するのも解決策を決めるのも私たちです。そしてその確信は、自分自身に問い直して自分自身が納得することでしか得られません。
まとめると新規事業を進める上で重要なのは、「自分の確信から出発して、その確信を問い直す」ことを繰り返して確信を得ていくことです。その際には、下記のような批評的な問いかけをすると、自身の中で客観的に見つめ直せる思考を促しやすいのではと思います。
このような自分の外部に答えを求めないという考え方はある種当たり前ではありますが、不確実性を許容できずについつい多くの人が陥ってしまう思考の罠ではないかと思います。
実はこの考え方が冒頭に述べた「本質直観」という概念で、水越康介さん著の”「本質直観」のすすめ”という本に詳しいです。元々は哲学者であるフッサールが研究していた現象学を基盤に展開されている考え方なのですが、新規事業やイノベーションを生み出す上で非常に大切だと感じているために今回紹介させていただきました。
では、改めて新規事業におけるリサーチの意義とはなんでしょうか?
先ほど、自分自身で確信を問い直すと述べましたがそのプロセスの中では、やはり無意識的なバイアスは避けられない部分があるかと思います。アイデアの発想をする際もそうですが、そのアイデアに対する確信に暗黙的に存在している固有の常識やバイアスが、これこそ正しいという思い込みを誘発して問い直し続けることを停滞させてしまいます。
だからこそユーザーリサーチが必要ではないかと思います。新規事業をつくったりイノベーションを生み出す上で答えを求めるのではなく、そのバイアスに気付いて新しい枠組みで問い直し続けること、そしてそれには外部の視点が必要です。「本質直観」のすすめにて、ユーザーリサーチは考え方の枠組みと自分の確信を問い直すための材料を集める行為と述べられていますが、これこそがリサーチの意義なのではないかと思います。
何らかの課題意識をもとにアイデアを発想する際にも、リサーチから対象の人々の生活や行動、文脈、感情を理解しながら、自分にはない新たな価値観に出会うこともあるでしょうし、検証をする際にも課題だと思っていたことそのものを問い直すこともあるでしょう。そのような枠組みや材料をリサーチを通して集めていき、最終的な自分自身の意思決定に活かすことが重要です。
ちなみに、リサーチする中でも認知バイアスや確証バイアス、対象側の社会的望ましさのバイアスなど、なんらかのバイアスは多少なりとも必ず存在します。しかし、行動や感情など特に定性的な情報を扱う際には、リサーチ自体がバイアスを受けることは避けられないものと認めること、またそれを知ることが重要です。そのため、それを認識してチームで共有した上で臨みつつ確信を問い直すことに意味があるかと思います。(長谷川恭久さんのこちらの記事が参考になります)
今回は、新規事業やイノベーション創出にあたりリサーチをどのような文脈で用いることができるのか、またそこから見出す意義とは何かを考えていきました。そのような立場にいる方にとって何かしらの参考になれば幸いです。また今後、そのリサーチをどのように進めていけばいいのか?という具体的なHOWについてもお伝えできればと思います。
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