2017.3.9 / UX
以前の記事にて、なぜ新規事業にユーザーリサーチが必要なのかを主に述べました。しかし、いざ行おうと思ってもどのように行えばいいのか悩まれる方は多いのではないでしょうか。
そこで、今回はUXデザインのリサーチ手法にはどのようなものがあるのかを分類した上で、その中でも利用頻度の高いユーザーインタビューの方法、特に質問設計にフォーカスしてお話したいと思います。
今回の記事では主に下記のポイントについて見ていきます。
そのため、特に「ユーザーインタビューの設計方法が分からない」「何を尋ねたらいいのかわからない」「質問しようと思ってもつい誘導してしまいがち..」という方に役に立つかと思います。
逆に今回の記事では、下記のポイントに関しては述べませんのでご了承ください。
ではまず、リサーチには具体的にどういった手法があるのか分類していきます。以前、大きく発想的リサーチと検証的リサーチで分類しました。発想的リサーチは機会を見つけてアイデア発想につなげることを、検証的リサーチはアイデアを仮説に分解して検証していくことを目的にしたものです。
更にその軸に加えて、定量的か定性的かという軸で見ていくといいでしょう。定量的なリサーチは、具体的行動の結果や意見の集積など「WHAT」を捉えやすい性質があり、定性的なリサーチでは、その理由やプロセスなどの「WHY・HOW」を捉えるための情報を集めることに長けています。主なUXデザインのリサーチ手法をこの二軸でとり、4象限で分類すると下記のようになります。
今回はこの中で、ユーザーインタビューに焦点を当ててみていきます。なぜインタビューなのか?というと、特に新規事業においては仮説を生むためにも検証をするにも有用なケースが多く、また現実的なプロジェクトの時間的制約と得られる結果のバランスからも用いることが一番多い手法だからです。
ユーザーインタビューにも種類があるのですが、発想的リサーチ・検証的リサーチともに役に立つ半構造化インタビューという手法を前提に紹介していきます。半構造化インタビューとは、質問する項目を全て固めておくのではなく、抑えておきたい大事な質問だけを絞って事前に設計しておき、その質問で得た回答内容をさらに深掘りしていくために質問をその場で生成して問いかける、というものです。
その他の定性的なリサーチ手法も含めて、半構造化インタビューがどういう位置づけなのか比較してみたのが下記の表になります。実際にプロジェクトで扱う手法は、表中の観点などからそれぞれのメリット・デメリットや特徴に応じて最適なものを決定してきます。詳しい使い分けに関しては、「機会発見」という本が詳しいかつ、非常に良書ですので参照して頂ければと思います。
では前提の整理ができたところで、実際にインタビューを進めるに当たっての全体の流れを紹介します。
上記にあげているステップに関しては、冒頭でも述べた通り省略している部分もあるため、詳しい全体実施プロセスに関しては、ユーザーインタビューの教科書を参考にすると良いかと思います。本記事では主に下記の「4.質問項目の設計」を重点的に、また前提準備となる「1.目的の設定」と「2.対象の設定」について述べていきます。
出発点としては、ユーザインタビューによって明らかにしたいことは何か?という観点です。ユーザーインタビューに限らず、どのようなリサーチでもこの出発点が重要です。何を知りたいのかが明確になっていないと、質問項目を適切に設計できなくなるのはもちろんですが、そのインタビューが良かったのか?その質問が良かったのか?という、後々のリサーチの方法自体の内省と改善もしづらくなります。
何を知りたいかを知るには下記のような問いが役に立つのではと思います。
では、本記事用に簡単に考えた架空事例を見ていきます。食・ソーシャル関連などの事業に携わっている方が「どうしたら家庭での食料廃棄を減らせるか」という課題意識をもっているとしましょう。
この課題意識に対して人々がどのように生活を送っておりその中でどう行動しているのか、などの理解を深めて課題構造の発見と解決策の仮説につなげたいときに、下記のようなことを知りたいとします。
上記のような問いについて知ることができれば、家庭での食と食料廃棄の関係性の大枠がつかめます。そこから、食料を購入するという観点で家庭での食事の具体的なプロセスに入っていき、実際の対処法を聞くことで現状の理解につながるのでは、と考えたとします。
ちなみに、今回の記事では半構造化インタビューを行う前提ですが、本来はこの目的の設定を終えたあとに、最も適切なリサーチ手法は何なのか?という段階から判断していきます。
具体的には、手法を選択する際の観点としては、下記の2点かなと思います。
基本的には得たい結果とどのくらいリソースをさけるか、という部分のトレードオフを見込んで選択するというのが現実的ではないでしょうか。
さて、知りたいことが設定できたら、誰に対してそれを聞くのかを考えていきます。新規事業にかぎらず「誰が、何に困っているか?」という視点から、顧客仮説と課題仮説が重要になってきます。顧客が異なれば抱えている課題も異なる可能性が高いからです。そのため想定している課題意識から、初期の顧客仮説をたてていきます。
先の例でいうと、特に食料が余ってしまう事態に直面している人たちとは誰だろう?というのを具体化していく過程です。例えば、一人暮らしの若手社会人は、仕事にも不慣れかつ急に飲みに誘われて生活が不規則なために、自炊しようとしても思うよりもできずに余りがちではないか、または一人分の量で食材を買うのが難しいのではないか、という仮説。または日頃から家族のために料理をする主婦はスーパーで安い食材をみるとついつい買いすぎて余ってしまう人も多いのでは、と幾つか仮説を立ててそれらに優先度をつけます。
最初に取り組むべき顧客仮説が定まったら、もう少し具体化するために特徴的な行動や特性を簡単にあげていきます。ここでは、家族のために料理をする主婦を例にしていくつか挙げてみます。
対象の設定を終えたら、ターゲットに当てはまるのかを判断できるようにそれらを指標化してスクリーニングアンケートを作成し、対象者のリクルーティングに入ります。
リクルーティング手法に関しては、機縁法とよばれる友人伝いで条件に見合う人を探す方法、外部のリサーチ会社にリクルーティングのみ外注する方法、オンライン/オフラインでのコミュニティを見つける、クラウドソーシングを活用する、などが諸々挙げられますが今回、詳細説明は省かせていただきます。
また、よく何人を対象にインタビューを実施すればいいのか、という質問がありますが勿論最終的にはあなたがどれくらい確信をもてるようになるのか?ということに依存するために明確な答えはありません。ただ、参考数値としてはパターンが見えてくるまでおよそ5~10人かと思います。
リクルーティングを進めている最中に、実際のインタビューで利用する質問を考えていきます。この質問はステップ1に定めた知りたいことを知るための質問になり、私の場合は下の例のように、思いつく限りひとまず粒度も聞き方も気にせずに質問をリストアップしていきます。
ひとまず質問を洗い出すことができたら、その質問の背景にある知りたいことを知るために、どのように尋ねるべきか、質問の仕方やニュアンスを考えながら言い換えます。どのように質問するのか、というのは非常に重要でこの問いかけ方によって相手の回答にバイアスが生じたり、誘導的になったりなどの悪影響が起こる場合もあります。そのため、よりよく言い換えを行うことはできないかと考えていきます。私が特に気をつけるのは以下のポイントです。
質問がかなり限定的になってしまうと、相手の思考や回答の内容もそれに応じて限定されてしまいます。それによりその周辺にあるはずの情報を見逃し、得られる情報が断片的になる恐れがあります。そのため、なるべく洗い出した問いを抽象化できないか?これは回答を限定していないか?という観点で言い換えていく必要があります。自由に回答できる大きな枠組みを与えて、得た回答から深掘りをしていき、そこで回答にあがらなかった事柄は後から質問していくようにしています。
例えば、
一番意識するべきは相手の意向や意見ではなく、具体的な経験を聞き出すということだと思います。将来的な憶測を尋ねても将来に関することは単なる意見であり、意見というのは何かしらの事実にもとづいている情報に推測が加わったもので、仮説にすぎません。私たちが必要なのは事実情報ですので、意見と事実の区別をしながら経験や状況を聞いていく必要があります。そのため、主には現在の行動や、過去の経験を質問することが重要となります。
また、この具体的経験とその状況、文脈の理解は何より相手への共感を大きく促してくれます。これは「物語」のもつ力、という観点でも捉えられるかと思います。脳科学の研究によると、良い物語を聞くことでオキシトシンというホルモンが増加し共感や協調を促進するそうです。
この言い換えは例えば下記のようなものになります。
具体的経験を尋ねる際には、「普段どのように食料を購入しますか?」という一般形式的な質問だけではなく、1番最近の経験を聞き出すことがポイントです。一般形式的な回答では、本当にその行動が行っているのかが掴みきれませんが、直近の経験を尋ねることで、具体的エピソードとして明確に事実情報が得られやすくなるという点が挙げられます。一般形式的な質問をしたあとに直近の経験を聞く、という2段構成をとることもあります。
ある1つの知りたいことに対して、時には別の角度から質問をすることでより立体的に情報が得られることがあります。または、そうすることで先の質問に対する回答と矛盾するような事実が発見できることもあります。その場合には質問の仕方によるバイアスであったり、無意識の結果であったりと、なぜ発言に食い違いが出たのかも何かしらの大きなヒントになるかもしれません。
例えば、質問を進めていく中で、食材が余らないように買い物リストをつくっているという返答があったとします。その際に下のような2つの質問では、1つめに買い物リストをつくるようになった経緯を知ることで、どういう期待を買い物リストにもっているのか理解に努めます。そして2つめの質問で買い物リストが必要ない場面を聞くことにより、必要なシーンとそうでないシーンの差異が理解できるため、対象における買い物リストへの意味づけがより明確になります。
これは結構重要な観点かつ私も未だに悩んでいる部分ではありますが、よくインタビューの文脈でも「なぜなぜ5回」という手法(ラダリング法)などを用いて、理由を深掘りしようという言説をみることがあります。しかし、一方で直接的になぜと尋ねることは相手に強制的に論理説明を強いることにもなります。人間の行動の95%は無意識によるものと科学的実証もあるように、実際には全ての行動に明確な意志と理由が伴っているわけではありません。そこでなぜ、という論理説明を求められるとその場で回答をつくりあげる、ということになるおそれがあります。
また、なぜ?という問いかけは意図せずとも相手に非難的な印象を与えてしまうメッセージ性を含んだ言葉であるために、ラポールの観点から繰り返し用いられると後々のインタビューでオープンに回答をしづらくなる状況をつくる、といったリスクも考えられるのではないかと思います。
ではどうするかというと、前提として本質的なWHYという原因はあくまで私たちが分析する、という考え方が必要だと感じます。なぜという答えを生み出すのは最終的には私たちという考え方で、これは前回の記事で紹介した本質直観にもつながります。
そこで必要なのは先述した具体的状況と経験をいかに聞き出すのかではないかと思います。つまり本来的にどうしてそういう行動を取ったのか、というリサーチ後の分析の過程ではなぜ?という問いが大きく力を発揮するのですが、まず過去の経験とその周囲の文脈の立体的な理解が必要になるのだと思います。
そのために、私は全体的な文脈や経験をいかに理解するのか?という観点から先述の「一番最近、食料を購入したときのことを教えてください」といった過去の経験を引き出す抽象度の高い質問を投げかけた後に、回答に応じて深掘りする際に、WHY以外の4W1Hを用いることが多いです。
1つには、WHEN、WHEREを上手く用いる方法。行動の原因を分析する過程にて、文脈を正しく理解し多くの事実情報が必要なため、WHENやWHEREを用いて対象者に具体的経験の背景や状況を語ってもらうことに理解に努めます。
2つめに、WHYをWHATを用いて言い換えることもできるのではないかと思っています。こうすることで、非難のニュアンスを用いず、直接原因を説明させるから質問から、目的語を回答する質問へと変容するので答えやすさが出るのではないかと感じます。
また、もう1つにはWHYではなくHOWを上手く活用する方法。これは、英語でいうとWHYとHOW COME、のニュアンスの違いから発想して使っています。差異としては、WHYは直接的な理由を尋ねる意味合いをもっており、HOW COMEはそこに至るまでの過程を求めるといった意味合いで、「何がそうさせたのか、どのようにしてそれが起こったのか」といった形で訳すことができます。これを用いることで、対象者を直接的に論理説明を頭の中から引き出すことを強いる状況に陥らせることなく、時間軸で順序立てて整理できるよう思考促せるのでは、と思っています。(これらは私もまだ試行錯誤中ですので参考程度になれば幸いです)
上記の方法から、どのように言い換えていくのかという参考例として、いくつか例を記載しました。
ユーザーインタビューで答えてもらいたい質問のリストアップと言い換えを終えたら、全体の構成を考えます。観点としては、質問の順番とそれぞれの質問への時間配分の目安です。順番に関しては、
という流れが大きい枠組みとしてはよいかと思っています。最初は、インタビュー対象者との関係性が出来ていないために、ラポールとよばれる関係性構築のための質問を投げかけます。ラポールとは、「安心して自由な発言、振る舞いができる関係性」と捉えてもらえば大丈夫です。チームビルディングでよく取り上げられる心理的安全、というものに近しいかと思います。ラポールの形成のために相手の仕事や趣味、テーマに関する簡易的な話題を尋ねたりするのですが、単に相手の緊張を解きほぐして心理的安全を感じてもらう以外にも、対象者の生活や背景・価値観を深く理解するのに重要な工程でもあります。
その後で、洗い出したテーマに対する質問に入っていきますが、最初はなるべく全体感をつかむような抽象度の高い質問からしていきます。これはいきなり具体的な質問に入ると対象者の中でも、整理ができていないために経験を思い返して引き出すことが難しくなってしまうことと、インタビュアー側としても情報がピンポイントになってしまい、全体における特定の情報の関係性を把握しづらくなってしまうからです。
そのため大枠の質問をしたあとに、特定の検証したい仮説や細部に関する過去の経験を聞き出していきます。その際、質問同士の依存関係や前後関係には注意します。
最後に、もしこの状況がどのように変われば嬉しいのかといった探索的、意向的な質問を尋ねたい場合は、目的に対する優先順位の観点から私は一番後ろに持ってくるようにしています。状況設定してプロトタイプを用いたコンセプトのテスト等を行う際も、バイアスがかからないようにするため、同様に一連の質問をしたあとに行います。
質問設計が完了したら、対象者に対しての概要説明を含めたインタビュースクリプトの用意をし、リクルーティングの日程調整を行いつつ実施に向けて備えます。時間に余裕がある場合は、練習を何度かすることで質問項目の粗を見つけられ、導入の間合いをつかみやすくなりますので何回か通しておくこともいいでしょう。
その後はユーザーインタビューを実施してみて、都度その内容や質問項目などの振返りを行います。特に、初期に設計したインタビューは何かしら過不足があることが多いので、1回ずつ振返りを通して質問項目や問い方も反復して改良していくことが重要です。
一通りのインタビューが終了したら、その内容の分析や統合のプロセスに入っていきます。ここに関してはまた別の機会に紹介できればと思っています。
以上、ユーザーへの共感と自身の考えを問い直すために、UXデザインのリサーチ手法の中でもとくにユーザーインタビューの具体的な方法と質問設計の仕方に関して私の経験と考えを共有させていただきました。
インタビューの仕方に関しては正直とても奥が深く、どのように情報と物語を引き出すのかはこれからも学び続けていく必要があるので、私自身思考錯誤しています。また、エスノグラフィが社会学・文化人類学から発展してきたように、STANDARD社内では心理カウンセリングや刑事が用いる回顧的調査など、別の領域からインタビューに関しても示唆が得られるのではないか、という話も出ており引き続き学んでいきたい分野です。
STANDARDではこのようなユーザーインタビュー等のリサーチを用いたアイデア発想や仮説検証、UXデザイン、既存サービスの改善に関して、領域を問わずクライアント様とご一緒させていただいています。関心を持たれた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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